Malus RF Works

技術ノート

Smith Match の使い方 — ドラッグで整合回路を設計する

これまでの記事で使ってきた図や数値は、すべてSmith Match という自作のツールで確認できます。ブラウザで動き、インストールも登録も要りません。ここでは一通りの使い方をまとめます。

Smith Match を開く

画面の構成

左側にスミスチャートがあり、その下が 回路図特性 のタブで切り替わります。右側が 素子 のパレットと 設定 です。

上端には現在の状態が並びます。

Zin 50 + j0 Ω   目標 3 + j0 Ω   VSWR 1.000   RL ∞   |Γ| 0.0000

Zin が今どこにいて、目標がどこか。この2つが常に見えているのが基本の読み方です。

設計してみる — 200 Ω を 50 Ω に

L 型整合の記事と同じ設計をなぞります。

1. 負荷と目標を決める

設定 → インピーダンス で、

  • 負荷 ZL の R を 200、X を 0
  • 目標インピーダンス Zt の R を 50、X を 0
  • 設計周波数 f01 GHz

値の入力は工学単位が使えます。1G1.4p13.8n のように書けば解釈されます。入力は編集が終わってから確定するので、1.35G と打っている途中の 1 が一瞬反映されて設計が飛ぶ、ということは起きません。

2. 素子を足す

素子パレットから 並列 C を選びます。チャート上に丸が現れ、等コンダクタンス円の上を動けるようになります。

3. ドラッグする

丸をドラッグすると、その素子が物理的に描ける軌跡の上だけを点が動き、素子値が逆算されます。等抵抗円と交わるところまで持っていくと、50 − j86.6 Ω 付近になります。

続けて 直列 L を足し、中心までドラッグすれば整合完了です。値は 1.378 pF13.78 nH になるはずです。

動かせない方向へドラッグしたときは、その旨と代わりの素子が提案されます。たとえば並列 C で行けない向きへ引っ張ると「その向きへは動かせません — 並列 L に切り替える」と出ます。素子の選択自体が間違っていることを、その場で教える作りにしてあります。

回路図から直接いじる

チャートの下の 回路図 タブでは、設計がラダー図として描かれます。ここで値を直接入力でき、 で削除、並べ替えもできます。

左端が電源側(Zin を見込む端子)、右端が負荷 ZL です。チャートで大づかみに決めて、回路図で値を詰めるという順序が実際には多くなります。

特性を見る

特性 タブに切り替えると、|S11||S21| が並んで表示されます。

片方だけでは足りないので、最初から2つ並べてあります。整合回路に直列 R を足してみると、チャート上の点は中心に近づくのに |S21| は下がっていくのがそのまま見えます。

掃引範囲は 設定 → 掃引・規格 で変えられます。2段整合の記事に書いたとおり、設計帯域の 2 〜 3 倍まで広げて確認するのを習慣にしてください。狭い掃引は、見えていないものを教えてくれません。

規格線で判定する

同じ 掃引・規格 のタブで、規格線を3本引けます。

  • |S11| の上限(整合)
  • |S21| の下限(挿入損失)
  • |S21| の上限(阻止)

それぞれ帯域と dB 値を指定すると、合否が表示されます。掃引範囲に規格の帯域が入っていないときは「掃引範囲外」と出ます。合格ではなく判定不能、という区別です。

チャートの表示を変える

チャート左上のボタンから チャート表示 を開くと、重ねるものを選べます。

表示用途
インピーダンス格子直列素子を扱うとき
アドミタンス格子並列素子を扱うとき
Zin の周波数特性軌跡帯域の広さを見る
VSWR 円規格の余裕を一目で見る
Q 円回路 Q の見当をつける

軌跡 はとくに有用です。スミスチャートの読み方に書いたとおり、深さと広さは別の話で、軌跡を出すとその2つが同時に見えます。整合素子をドラッグしている最中も追従して動きます。

なお 軌跡の比帯域 は周波数掃引とは別の設定です。軌跡は f0 の周りを見るためのもの、掃引は帯域全体を見るためのもので、それぞれ違う問いに答えます。

目標は中心でなくてよい

チャート基準 Z0 と目標 Zt は独立です。50 Ω 正規化のチャートのまま、目標を 75 Ω や 25 − j40 に設定できます。

共役整合の記事で書いたとおり、PA の出力整合では 50 Ω に合わせないほうが普通です。目標が中心から外れた位置に印として描かれ、整合の達成度はその点からの距離で判定されます

初期状態で目標をあえて中心から外した値にしてあるのは、この2つが別物だと最初に分かるようにするためです。

負荷モデルを切り替える

設定 → 負荷 ZLモデル から、R + jX(周波数一定) のほか R-L / R-C の直列・並列を選べます。

R + jX(周波数一定) には注意書きが出ます。非物理なモデルなので、帯域が実際より広く見えるためです。同じ設計のままモデルだけ切り替えると、掃引の形が変わります。

設計データの保存

設計は自動的にブラウザに保存されます。閉じて開き直せば続きから始められます。

設定 → データ から JSON で書き出し・読み込みができます。設計を人に渡したいとき、複数案を比べたいときはこちらを使ってください。

保存先はブラウザ内(localStorage)で、サーバーには送信されません。詳しくはプライバシーポリシーに書いてあります。

スマートフォンでも動く

同じ画面がスマートフォンでも動きます。ホーム画面に追加すればアプリのように起動します。移動中に思いついた構成を試すくらいの用途なら十分に使えます。

作った理由

市販のシミュレータは高機能ですが、「この素子を足すと点がどっちに動くか」を確かめたいだけのときには重すぎます。かといって紙のスミスチャートでは、周波数特性までは追えません。

その中間、チャートの直感と周波数特性を同時に見られる道具が欲しくて作りました。これまでの記事で書いた内容は、ほぼすべてこのツール上で確認できます。

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