整合回路の入り口は L 型です。素子2つで済み、値も手計算で出せます。ここでは 1 GHz で 200 Ω の負荷を 50 Ω に合わせるという設定で、最後まで数字を追ってみます。
なぜ2素子で足りるのか
前回書いたとおり、素子ごとに動ける経路は決まっています。
- 直列素子 — 等抵抗円の上しか動けない
- 並列素子 — 等コンダクタンス円の上しか動けない
この2系統の円は交わります。だから 片方の円で交点まで運び、そこでもう片方の円に乗り換えて中心へ入る。これが2素子で整合が取れる理屈です。交点が存在する限り、L 型で解けます。
並列素子をどちら側に置くか
L 型には並列素子が負荷側に来る形と、電源側に来る形があります。選び方は単純で、並列素子は抵抗の大きいほうに置きます。
並列に素子を足すと、見かけの抵抗は必ず下がります。今回は負荷が 200 Ω、目標が 50 Ω なので、下げる方向です。したがって並列素子は負荷側。逆に負荷のほうが低ければ、並列素子は電源側に来ます。
ここを間違えると、交点が存在せず解が出ません。
Q が決まれば値が決まる
変換比から回路の Q が決まります。
Q = √(R_high / R_low − 1)今回は R_high = 200、R_low = 50 なので、
Q = √(200/50 − 1) = √3 ≈ 1.7321この Q から2つの素子値が出ます。並列素子は大きいほうの抵抗に対して、直列素子は小さいほうの抵抗に対して効く、と対応づけると覚えやすいはずです。
並列サセプタンス B = Q / R_high = 1.7321 / 200 = 8.6603 mS
直列リアクタンス X = Q × R_low = 1.7321 × 50 = 86.603 Ω1 GHz での素子値に直します。ω = 2π × 10⁹ です。
C = B / ω = 8.6603e-3 / 6.2832e9 = 1.3783 pF
L = X / ω = 86.603 / 6.2832e9 = 13.783 nH並列 C が 1.3783 pF、直列 L が 13.783 nH。 これが教科書に載っている値です。
途中経過を確認する
値が正しいかは、途中の点を見れば分かります。
まず負荷 200 Ω に並列 C を足した時点のインピーダンスは、
Z = 1 / (1/200 + j·8.6603e-3) = 50.000 − j86.603 Ω実部がちょうど 50 Ω になっています。 これが「交点まで運んだ」状態です。並列素子の役目はここまでで、残っているのは −j86.603 の容量性リアクタンスだけです。
そこへ直列 L の +j86.603 を足すと、
Z = 50.000 − j86.603 + j86.603 = 50.000 + j0 Ω虚部が消えて、ちょうど中心に入りました。並列素子で実部を合わせ、直列素子で虚部を消す — L 型整合の中身はこの2段です。
Q は帯域も決めてしまう
ここからが実務で効く話です。上の計算で Q は「素子値を出すための数」でしたが、同じ Q が帯域を決めています。
素子値はぴったり合わせられても、それは設計周波数 1 点での話です。周波数がずれれば C と L のリアクタンスは変わり、整合は崩れます。崩れ方の速さが Q です。
先ほどの回路で、|S11| が −15 dB を下回る範囲を計算すると次のようになります。
0.871 GHz 〜 1.114 GHz → 比帯域 24.3 %負荷抵抗を変えて、同じ条件で比べてみます。
| 負荷 | Q | −15 dB の比帯域 |
|---|---|---|
| 100 Ω | 1.00 | 53.0 % |
| 200 Ω | 1.73 | 24.3 % |
| 400 Ω | 2.65 | 14.6 % |
| 800 Ω | 3.87 | 9.6 % |
変換比を上げるほど帯域は急速に狭くなります。 800 Ω を 50 Ω に合わせる L 型は、1 GHz なら 100 MHz 弱しか使えません。
だから、帯域が足りないときに素子値を微調整しても解決しません。Q が高すぎることが原因なので、打つ手は別のところにあります。
- L 型を2段に分け、変換比を分担させる(各段の Q が下がる)
- 伝送線路やスタブを併用する
- そもそも負荷側の変換比を下げられないか検討する
「素子値を追い込む」のと「トポロジを変える」のは、別の問題に対する別の対処です。まず Q を見て、どちらの問題なのかを切り分けるのが順序になります。
もう1つの解
今回は並列 C・直列 L を選びました。これは低域を通す構成です。並列 L・直列 C の高域を通す構成でも、同じ 200 Ω を 50 Ω に合わせられます。Q は同じなので、素子値も対称的に決まります。
どちらを選ぶかは整合の良し悪しではなく、通過特性をどうしたいかで決まります。
- 高調波を落としたい → 低域通過(並列 C・直列 L)
- 直流を切りたい、低域の雑音を避けたい → 高域通過(並列 L・直列 C)
整合だけを見ていると等価に見える2つが、|S21| を見ると別物になります。整合は S11 だけの問題ではない、というのがここで効いてきます。
手を動かす
上の手順は、チャート上で動かすとそのまま目で追えます。
負荷を 200 Ω にして並列 C を足すと、点が等コンダクタンス円に沿って動き、実部 50 Ω の円と交わるところで 50 − j86.6 になります。そこに直列 L を足せば中心です。掃引表示に切り替えれば、上の表の帯域もそのまま確認できます。