Malus RF Works

技術ノート

スミスチャートの読み方 — あの円は何を表しているのか

スミスチャートは、初めて見ると円が入り組んだ図にしか見えません。しかし成り立ちは単純で、反射係数の地図に、インピーダンスの目盛りを重ねただけです。そこが分かると、あとは道具として使えます。

土台は反射係数の平面

特性インピーダンス Z0 の線路に負荷 Z をつないだとき、反射係数はこう書けます。

Γ = (Z − Z0) / (Z + Z0)

Γ は複素数です。受動的な負荷なら必ず |Γ| ≤ 1 なので、取りうる値は半径1の円の内側に必ず収まります。この円がチャートの外枠です。

つまりチャートの外枠は、インピーダンスの都合ではなく、反射係数が単位円に収まるという事実そのものです。まずここが土台になります。

インピーダンスの目盛りが円になる理由

次に、この平面へインピーダンスの目盛りを描き込みます。Z0 で正規化して z = Z / Z0 と置くと、先ほどの式は次のようになります。

Γ = (z − 1) / (z + 1)

これは一次分数変換(メビウス変換)です。この変換には、直線と円を直線と円に写すという性質があります。

z 平面で「抵抗が一定」の線も「リアクタンスが一定」の線も、まっすぐな直線です。それを Γ 平面に写すと、直線のままではいられず円弧になります。チャートの円は、まっすぐな目盛りを反射係数の世界に写した姿というわけです。

結果として2種類の曲線が引かれます。

  • 等抵抗円 — R が一定の点の集まり。右端の一点で全部が接する
  • 等リアクタンス円弧 — X が一定の点の集まり。上半分が正(誘導性)、下半分が負(容量性)

覚えておく5つの位置

理屈より、位置を覚えるほうが実務では速く効きます。

位置インピーダンス意味
中心Z = Z0無反射。整合が取れた状態
右端Z = ∞開放
左端Z = 0短絡
上半分X > 0誘導性。L が効いている
下半分X < 0容量性。C が効いている
スミスチャートの主要な位置中心 Z = Z0開放 ∞短絡 0上半分 — 誘導性 X > 0下半分 — 容量性 X < 0
中心が整合点、右端が開放、左端が短絡。上下でリアクタンスの符号が分かれる。

中心から離れるほど反射が大きい、というのが最も基本的な読み方です。中心からの距離がそのまま |Γ| になっているためです。

VSWR は中心を回る円

|Γ| が同じ点は、中心から等距離にあります。だから VSWR 一定の軌跡は、中心を中心とする真円になります。

VSWR = (1 + |Γ|) / (1 − |Γ|)

規格が「VSWR 2 以下」なら、対応する円をチャートに描いて、設計点がその内側にあるかどうかを見ればよいことになります。数値を睨むより速く、しかも帯域全体の余裕が一目で分かります。

リターンロスで言うなら次の関係です。

RL[dB] = −20 log10 |Γ|

VSWR 2 は |Γ| ≈ 0.333、つまり約 −9.5 dB です。

素子を足すと点はどう動くか

整合回路の設計とは、負荷の点を中心まで運ぶ経路を決めることです。素子ごとに動ける方向は決まっています。

  • 直列 L — 等抵抗円に沿って時計回り
  • 直列 C — 等抵抗円に沿って反時計回り
  • 並列 C — 等コンダクタンス円に沿って時計回り
  • 並列 L — 等コンダクタンス円に沿って反時計回り

直列素子は抵抗を変えずリアクタンスだけを足すので、等抵抗円から外れられません。並列素子は逆に、コンダクタンスを変えずサセプタンスを足します。だからアドミタンスの目盛り、つまり等コンダクタンス円の上を動きます。

L 型整合回路が2素子で済むのは、この2系統の円が交わるからです。片方の円で交点まで運び、もう片方の円で中心へ入る — これが2素子で整合が取れる理屈です。

実測データを読むとき

ネットワークアナライザの表示をチャートで見るとき、周波数を掃引すると点は軌跡を描きます。ここで見るべきなのは1点ではありません。

  • 軌跡がどれだけ中心の近くを通るか — 整合の深さ
  • 軌跡がどれだけ中心付近に留まるか — 帯域の広さ
  • 軌跡が回る向きと速さ — 余分な線路長が入っていないか

設計周波数で完璧に中心を射抜いていても、軌跡が急峻に横切っているだけなら帯域は稼げていません。深さと広さは別の話で、チャート上ではその2つが同時に見えます。これが数値表示にはない利点です。

この区別は、規格線を引いて判定するときに効いてきます。規格が問うのは中心の深さではなく、帯域の端での値だからです。

手を動かすのが早い

読み方は、実際に動かすと一気に腹落ちします。ブラウザで動く整合回路デザイナーを公開しているので、素子を足して点がどう動くかを試してみてください。

Smith Match — 整合回路デザイナー

チャート上の点をドラッグすると、その素子が物理的に描ける軌跡の上だけを点が動き、素子値が逆算されます。上に書いた「直列 L は等抵抗円に沿って時計回り」といった規則が、そのまま操作の制約になっています。

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