L 型整合の記事で、帯域を決めているのは Q だと書きました。変換比が上がるほど Q が上がり、帯域は急速に狭くなります。
では変換比が動かせないとき、どうするか。段を分けて Q を分担させるのが基本的な打ち手です。
中間インピーダンスを挟む
200 Ω を 50 Ω に合わせる場合、1段だと変換比は 4 倍で、
Q = √(200/50 − 1) = 1.7321ここに中間インピーダンス Zm を挟み、200 → Zm → 50 と2回に分けます。Zm を幾何平均に取ると、両段の Q が等しくなります。
Zm = √(200 × 50) = 100 Ω
段1: Q = √(200/100 − 1) = 1.000
段2: Q = √(100/50 − 1) = 1.000変換比 4 倍が、2 倍 × 2 倍に分かれました。Q が 1.73 から 1.00 に下がります。
素子値は各段について L 型の手順をそのまま適用するだけです。
| 段 | 素子 | 値 |
|---|---|---|
| 1 | 並列 C | 0.7958 pF |
| 1 | 直列 L | 15.9155 nH |
| 2 | 並列 C | 1.5915 pF |
| 2 | 直列 L | 7.9577 nH |
どれだけ広がるか
|S11| が −15 dB を下回る連続した帯域で比べます。
1段(Q = 1.73) 0.8715 〜 1.1140 × f0 → 24.2 %
2段(Q = 1.00×2) 0.8295 〜 1.2140 × f0 → 38.4 %素子が2つ増える代わりに、帯域は 1.6 倍になりました。段を増やすほど各段の Q は下がり、帯域はさらに広がります。極限まで進めれば、テーパー線路のような連続的な変換に行き着きます。
落とし穴 — 第2の通過帯域
上の図で気づくと思いますが、2段の応答には谷が2つあります。主帯域とは別に、1.72 × f0 付近にもう1つ −33 dB まで落ち込む点があります。
これは誤差ではなく、2段構成が持つ本来の性質です。段数を増やすと整合点も増え、設計帯域の外に意図しない通過帯域ができます。
実務では、これが問題になる場合があります。
- 送信機の出力段 — 高調波を落とすつもりの整合回路が、特定の高調波をよく通してしまう
- 受信機の入力段 — 意図しない周波数の妨害波が通ってくる
- 測定 — 設計帯域だけを掃引していると気づけない
掃引範囲を設計帯域の 2 〜 3 倍まで広げて確認するのは、このためです。今回の例なら 1.4 GHz までしか見ていなければ、第2の谷には気づきません。
検算していて実際にこれで足をすくわれました。−15 dB を横切る点を二分探索で求めたところ、山を飛び越えて「比帯域 99 %」という値が出てきます。応答を刻んで確認して初めて、間に −12 dB まで戻る山があると分かりました。帯域は端点を2つ求めるだけでなく、間が本当に連続しているかを確かめる必要があります。
λ/4 変成器でも同じ話
分布定数でも考え方は同じです。負荷が純抵抗なら、λ/4 の線路1本で整合が取れます(スタブ整合の記事)。
1段: Zc = √(50 × 200) = 100.00 Ωこれを2段にすると、各段の変換比が下がって帯域が広がります。二項分布で設計する場合、
2段: Zc1 = (50³ × 200)^(1/4) = 70.71 Ω
Zc2 = (50 × 200³)^(1/4) = 141.42 Ω線路の特性インピーダンスをこの2値で作れるかは、基板と製造条件次第です。141 Ω は細くなりすぎて作れないことがあり、そこが実装上の制約になります。集中定数の多段化に比べて、選べる値の自由度が低いのが分布定数の難しさです。
段を増やす前に確認すること
段数を増やすのは有効ですが、まず順序があります。
- 本当に Q が原因か — 負荷モデルが非物理なだけで、実際にはもっと狭いのかもしれません(負荷モデルの記事)
- 変換比を下げられないか — 負荷側の設計を変えられるなら、そちらのほうが安上がりです
- 損失が増えてよいか — 素子が増えれば損失も増えます。
|S21|も同時に見る必要があります(S11 だけでは足りない話)
とくに3番目です。段を増やすと整合は良くなり、通過は悪くなります。 素子1つあたりの損失は小さくても、4素子になれば効いてきます。効率が主役の回路では、帯域と損失のどちらを取るかという判断になります。
手を動かす
段数を変えて掃引を見比べると、この話はすぐ確認できます。
素子を4つ並べて2段構成にし、掃引範囲を 0.5 〜 2 GHz あたりまで広げてみてください。主帯域が広がることと、上のほうに第2の谷ができることが同時に見えます。 掃引を 0.9 〜 1.1 GHz に絞っていると、後者には決して気づけません。