周波数が上がると、集中定数の L や C は使いにくくなります。値が小さくなりすぎて寄生成分に埋もれ、部品のばらつきがそのまま特性のばらつきになるためです。そこで線路そのものを素子として使うのがスタブ整合です。
部品は2つだけ
分布定数で整合を取るとき、使う道具は実質2つです。
- 線路長 — 点を回す。等
|Γ|円に沿って時計回り - スタブ — その位置でサセプタンスを足す
線路の特性インピーダンスがチャートの基準と同じなら、線路を延ばしても |Γ| は変わりません。中心からの距離が保たれたまま、点がぐるりと回るだけです。ここが集中定数素子と決定的に違うところで、線路は整合を「進める」のではなく「回す」ものだと考えると混乱しません。
覚えておく3つの事実
| 線路 | はたらき |
|---|---|
| λ/4 の開放スタブ | 短絡になる |
| λ/4 の短絡スタブ | 開放になる。つまり何も足さないのと同じ |
| λ/2 の線路 | 何をつないでも、そのまま出てくる |
λ/4 で開放と短絡が入れ替わるのは、チャートを半周(180°)回るからです。λ/2 なら一周して元に戻ります。チャート上の1周が λ/2 に対応するという換算は、この先ずっと使います。
単一スタブ整合をやってみる
1 GHz で 100 Ω の負荷を 50 Ω に合わせます。線路もスタブも 50 Ω とします。
まず負荷の反射係数は、
Γ_L = (100 − 50) / (100 + 50) = 1/3|Γ| = 1/3 の円の上を、点はこれから回ることになります。
手順は2段です。
- 線路を延ばして、正規化コンダクタンスが 1 になる場所まで運ぶ
- そこに並列スタブを付けて、残ったサセプタンスを打ち消す
なぜ g = 1 を目指すかというと、並列スタブが足せるのはサセプタンスだけだからです。コンダクタンスは動かせないので、先に線路で g = 1 の円まで持っていくしかありません。
線路長を計算すると、
θ = acos(−1/3) / 2 = 0.9553 rad = 54.74° = 0.1520 λこの位置でのインピーダンスと正規化アドミタンスは、
Z = 33.333 − j23.570 Ω
y = 1.0000 + j0.7071コンダクタンスがちょうど 1 になりました。 残っているのは +j0.7071 のサセプタンスだけです。
これを打ち消すスタブを付けます。開放スタブのアドミタンスは y = j tan θ なので、tan θ = −0.7071 となる長さを選びます。
θ = 144.74° = 0.4020 λ足し合わせると、
y = 1.0000 + j0.7071 − j0.7071 = 1.0000 + j0
Zin = 50.000 + j0 Ω中心に入りました。
解は2つある — どちらを採るか
|Γ| 一定の円は g = 1 の円と2箇所で交わります。つまり解は必ず2つあります。
| 線路長 | 開放スタブ | 短絡スタブ | |
|---|---|---|---|
| 解A | 0.1520 λ | 0.4020 λ | 0.3480 λ |
| 解B | 0.3480 λ | 0.0980 λ | 0.1520 λ |
どちらも設計周波数では完全に整合します。しかし帯域が違います。|S11| が −15 dB を下回る比帯域を計算すると、
解A (スタブ 0.4020 λ) → 16.7 %
解B (スタブ 0.0980 λ) → 19.9 %短いスタブのほうが広帯域です。理由は素直で、スタブの電気長は周波数に比例して変わります。長いスタブほど、同じ周波数ずれに対してサセプタンスが大きく振れる。だから整合が早く崩れます。
実装上も短いほうが有利です。基板面積を食わず、損失も小さく、加工誤差の影響も小さい。迷ったら短いスタブ、というのはこの3つが同じ方向を向いているからです。
開放スタブと短絡スタブ
同じ仕事は、開放スタブでも短絡スタブでもできます。長さは λ/4 だけずれます。
- マイクロストリップ — 開放スタブが素直。短絡にはビアが要り、そのインダクタンスが誤差になる
- 導波管・同軸 — 短絡のほうが作りやすい場合がある
- 直流を通したい — 短絡スタブは直流的に接地されるので、バイアス経路を兼ねられる
最後の点は実務でよく使います。整合とバイアス供給を1本の短絡スタブで兼ねる構成は、パワーアンプでは定石です。
なお開放スタブは、先端から電磁界が漏れます。理想的には完全開放でも、実際には少し長く見える(端部効果)ので、設計値より気持ち短く作るのが普通です。
λ/4 変成器は特別な場合
スタブを使わず、線路1本で済む場合もあります。負荷が純抵抗なら、λ/4 の線路だけで整合が取れます。
Zc = √(Z0 × RL)200 Ω を 50 Ω に合わせるなら Zc = √(50 × 200) = 100 Ω です。線路の特性インピーダンスを自由に選べるなら、これが最も簡潔な解になります。
ただし負荷が純抵抗であることが条件です。リアクタンスが乗っていれば、先に線路を延ばして実軸に乗せるか、スタブで消す必要があります。実際の負荷はたいてい複素数なので、単一スタブ整合のほうが出番は多くなります。
λ/4 変成器も段を増やせば帯域が広がります。考え方は集中定数の多段化と同じです。
手を動かす
線路とスタブは、チャート上で見ると動きが分かりやすい素子です。
伝送線路を足して長さを変えると、点が中心を回る円の上を動きます。g = 1 の円と交わったところでスタブを足せば、上の手順がそのままなぞれます。解A と解B の帯域差も、掃引表示で並べれば一目で確認できます。