整合回路の素子は L と C だけではありません。LC の共振回路を1素子として使うと、整合を保ったまま別の仕事をさせられます。
2種類の共振素子
使うのは次の2つです。
| 素子 | 構成 | 共振周波数で |
|---|---|---|
| 直列タンク | 並列 LC を直列に挿入 | 開放。信号を止める |
| 並列トラップ | 直列 LC を並列に挿入 | 短絡。信号を地に落とす |
どちらも、共振から離れれば普通の L や C として振る舞います。共振点だけ特別なリアクタンスを持つ素子と考えると分かりやすいはずです。
離調の度合いはこの1つの量で書けます。
d = 1 − (f / f_res)²
直列タンク: X = ωL / d (f_res で分母が 0 → 開放)
並列トラップ: B = ωC / d (f_res で分母が 0 → 短絡)f ≪ f_res なら d → 1 となり、タンクは単なる L、トラップは単なる C に戻ります。共振周波数を十分高く置けば、普通の素子として使えるということです。
符号が反転する
d は f_res をまたぐと符号が変わります。ここが共振素子の面白いところで、同じ素子が周波数によって誘導性にも容量性にもなります。
| f < f_res | f > f_res | |
|---|---|---|
| 直列タンク | 誘導性 (X > 0) | 容量性 (X < 0) |
| 並列トラップ | 容量性 (B > 0) | 誘導性 (B < 0) |
チャート上では、共振点を境に点が反対方向へ動くように見えます。設計するときは どちら側で使っているのかを意識していないと、値を動かした向きと点の動く向きが合わなくて混乱します。
実用例 — 整合はそのままで高調波を落とす
具体的にやってみます。L 型整合の記事で作った 200 Ω → 50 Ω の回路は、
並列 C = 1.3783 pF、直列 L = 13.7832 nHでした。この並列 C をトラップに置き換えます。条件は「1 GHz でのサセプタンスを変えないこと」。共振周波数は第2高調波の 2 GHz に置きます。
1 GHz での離調は、
d = 1 − (1/2)² = 0.75同じサセプタンスを出すには ωC/0.75 = B なので、必要な容量は元の 0.75 倍になります。
C = 1.0337 pF
L = 6.1259 nH (2 GHz で共振する相方)結果を並べます。
| f / f0 | 並列 C の \ | S21\ | トラップの \ | S21\ | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1.0 | 0.00 dB | 0.00 dB | ||||
| 1.5 | −2.74 dB | −7.64 dB | ||||
| 1.9 | −6.84 dB | −26.4 dB | ||||
| 2.0 | −7.83 dB | ノッチ | ||||
| 2.1 | −8.77 dB | −28.3 dB | ||||
| 3.0 | −15.7 dB | −14.5 dB |
1 GHz の整合は完全に同一です。|Γ| は両者とも 1e−16 のオーダーで、区別できません。それでいて 2 GHz には深いノッチが立ちます。
素子数は増えていません。 並列 C が並列 LC になっただけで、部品としては1つ増えますが、回路のトポロジは変わりません。整合回路に高調波フィルタの機能を1つ持たせた形です。
ノッチの深さは Q で決まる
上の表で 2 GHz を「ノッチ」とだけ書いたのは、理想素子では無限に深くなるからです。計算上は −240 dB といった値が出ますが、これは意味のある数字ではありません。
実際の深さを決めるのは素子の Q です。トラップの直列 LC には必ず抵抗分があり、共振点でも完全な短絡にはなりません。
共振点でのインピーダンス ≈ 素子の実効直列抵抗実務での目安としては、
- インダクタの Q が 50 程度なら、ノッチ深さは 30 〜 40 dB
- ノッチの中心周波数は素子値の誤差でずれる。深いノッチほど鋭く、ずれの影響が大きい
- 温度でずれることもある
「深いノッチを狙う」ことと「確実に落とす」ことは違います。 部品公差で中心が数 % ずれても規格を満たすよう、少し浅めで幅のある設計にするほうが安全なことが多くなります。
直列タンクの使いどころ
トラップが「特定周波数を地に落とす」のに対し、直列タンクは「特定周波数を止める」素子です。
- バイアス回路の分離 — 信号周波数でタンクを開放にすれば、直流だけ通してRFを止められる。チョークインダクタの高度版
- 段間の帯域外抑圧 — 通したくない周波数で直列に開放を入れる
- 寄生共振の利用 — 実部品のインダクタは自己共振を持つので、意図せずタンクとして振る舞っている場合がある
最後の点は逆向きの注意です。理想 L のつもりで使っている部品が、自己共振周波数の近くではタンクとして振る舞います。 データシートの自己共振周波数(SRF)が使用周波数に近いなら、それは共振素子として扱わなければなりません。
手を動かす
共振素子は、共振周波数を動かしながら見ると挙動が掴めます。
直列タンクと並列トラップを素子として選べるようにしてあり、それぞれ共振周波数を個別に設定できます。共振周波数を f0 の上下にまたがせると、チャート上で点の動く向きが反転するのがそのまま見えます。掃引表示に切り替えれば、上のノッチも確認できます。